私の鍼灸治療の仕方

1 ホームページにお越し下さいましてありがとうございます
2 痛くない鍼
3 トリガーポイント
4 「トリガーポイントで腰痛は治る」について
5 膝関節痛(ヒザ関節痛 ひざ関節痛)の正体

ホームページにお越しくださいましてありがとうございます

ホームページにお越し下さいましてありがとうございます。

私は昭和58年に鍼灸師の免許を取得し、すぐに筑波大学芹沢勝助名誉教授の下、(財)東洋医学技術研修センターで1年間鍼灸の研究と治療法を勉強をしまして、昭和59年に開業いたしました。

開業以来「ツボとは何か」の現代医学的な理解を深めることを課題に治療をしております。

鍼灸治療は患者様にとっては一般にいわれるほどポピュラーな治療ではなく、特にからだに鍼を刺される恐怖感については治療家の想像をはるかに超えたものであろうと思います。

ましてや当院の新患様は99%以上が鍼初体験の方々ですので、できるだけ優しく、ソフトに治療することを心がけております。このページの下にも書いてございますが、痛くない鍼をしております。

次に当院の治療の仕方をお話しいたします。

ご本人の訴えを中心に治療します

当院にお越しの方はかなり具体的に「からだのこの箇所が痛い、重い、つらい」とおっしゃいます。
当院では「からだのこの箇所が・・・」の「箇所」-トリガーポイント-に対してミリ単位で移動しながら慎重に治療ポイントを決めてまいります。(MPS治療)

鍼灸院に来られる方の痛みの実体は機能的なものが大半であるので、その機能に直接影響を及ぼしている圧痛点をしっかり調べないことには問題解決にはとうてい及ばないと考えるからです。

ですから、痛いところおつらいところについてできるだけ沢山おっしゃって頂きたいと思います。

病院の診断だけであきらめないで

病院で「骨の変形だから治らない」とか「別にどこも悪くない」とかいわれても、実際、からだにに痛みやつらいところが具体的にあるわけです。特に「骨の 変形だから・・・」に関しては経験上、本当かな?と思うことが沢山あります。その理由は実際に痛んでいるところは筋肉や靱帯だからです。

ということは、これらの筋肉や靱帯の痛みを先ずとることが先決です。少なくともこのポイントでの鎮痛効果をねらうのが妥当な治療です。必ず解決策があるはず、あきらめずに当院で訴えてみて下さい。

いろいろ申し述べましたが、鍼灸は痛みをとるには即効性のある簡易で安全な治療法です。当院でなくてもお近くのはり灸院さんで、是非一度鍼灸というものをおためしいただけるとうれしいです。

なにかご質問や疑問等がございましたら こちらにお寄せください。


痛くない鍼

痛くない鍼の秘密

「はり灸にかかりたいけれど痛いから嫌」という方は以下お読みください。
当院では初診の方に「痛みを全く感じないで刺します」と必ず申し上げます。

不思議な顔をされます。「たまたま痛くなくさせることはあるかもしれないけれど“全く”というのは無理」と。
でも、“全く”痛くなく刺すことは可能です。

私の方法で、誰でもご自分に鍼を痛くなく刺せます。
やり方は簡単。

鍼の痛みは皮膚上では「面」ではなく「点」で感じています(「痛点」といいます。 ※下図参照-「痛みを知る」 熊澤孝朗 著 東方出版より)。
また皮下の脂肪組織や筋肉組織は鍼くらいでは全く痛みを感じません。

皮膚上で無痛で鍼が刺せればあとは何mm深く入れよう(通常5mm位ですが)と痛みを感じません。

「痛点」は大体1平方cmあたり100個ぐらいあるといわれています。

もし、「痛点」が整然と並んでいると仮定して痛点と痛点の間は1平方mmの広場があります。

鍼は直径0.1mmから0.2mmです(髪の細さとほぼ同じ)から痛みを感じない広場に対して十分な細さです。

鍼を刺すポイントに、垂直に鍼管(鍼の補助管)を立てます。鍼の頭を指で軽く触れます(鍼先は皮膚上)。

その時「チクチクしますか?」とお伺いします。

患者様が「チクチクします」とのおっしゃれば鍼は「痛点」に当たっている証拠です。

そこで鍼管は動かさずに鍼先を鍼管の内経の範囲内で動かします。

そしてまた「チクチクしますか?」とお伺いします。何度か繰り返すと「チクチクしません」とおっしゃいます。

鍼が「痛点」ではないところに位置した証拠です。

そこで初めて鍼を皮膚からゆっくりと皮下に入れてゆきます。

あーら不思議、痛みは全く感じません。

この方法は私が鍼灸の新米の頃、鍼灸書籍店でたまたま隣りあわせた鍼灸の先生が「鍼を痛くなく刺す方法を教えてあげます」と親切にもその場でご自分の鍼で実演して下さって教えていただいたものです。以後この方法で鍼をしております。

トリガーポイント

痛みのトリガーポイントは必ずある     20100101
最近「筋筋膜性疼痛症候群」(MPS、mps)とか「トリガーポイント」(TP、tp)という言葉がネットに数多く載るようになりました。

「トリガーポイント(引き金点)」とは、例えば腕が痛いとき、その箇所を触ると「ジーン」と響くときことがあると思います。それの箇所がトリガーポイントです。トリガーポイントは「ツボ」にもその多くが一致していいます。

トリガーポイントは、その箇所への鍼や指圧、ブロック注射などをして、痛みがとれる点です。

トリガーポイント治療は欧米では当たり前の治療として普及しており、ネットで「trigger point」で検索しますと沢山のサイトを見ることができます。

下の図はアメリカのサイトのトリガーポイントの図と説明の一部です。

図1-首、腕と背中の痛み(赤い点)は一般的には首の骨が変形しているから腕が痛むのだと説明されるところですが、実は首の前の筋肉(斜角筋)に緊張(▼印=トリガーポイント)があることを示しております。

図2-お尻から太ももの痛み(赤い点)は一般的には腰の骨が神経を圧迫している坐骨神経痛と診断されそうですが、実は臀部の側面の筋肉(小臀筋)に緊張(×印=トリガーポイント)があるということを示しております。

一般に骨の変形が問題であると診断された痛みでも、実は筋肉の緊張(スパズム)が原因で治療点としてのトリガーポイントがその関連筋肉の中にあるという例はほとんどの鍼灸師が経験として知っています。

ですから、皆様が今感じている痛みの根拠となるトリガーポイントを筋肉の中から探すことができるならば素人の方でも指圧や家庭用の灸などでその痛みから解放されることは十分可能です。

トリガーポイントはNHKの「ためしてガッテン」でも紹介されましたが、当院のサイトでもできるだけ多くのトリガーポイントを描画してゆきたいと思います。

※図1
「トリガーポイント」 アメリカのサイトより抜粋
「Ray O` Quinn Body in Balance」より
myofascial Trigger Point Therapy is a therapeutic modality used for the relief of pain and dysfunction originating in the muscles and connective tissue; "myo" means muscle and "fascial" refers to connective tissue. The techniques are the result of lifelong reasearch by Janet Travell M.D and David Simons M.D. Myofascial Trigger Point Therapy (MTPT) is recognized by the American Academy of Pain Management as an effective treatment of myofascial pain and dysfunction.

「Dr Jonathan Kuttner Life After Pain」より
※図2
Did you know that every muscle in your body has potential trigger points. When they become active they do cause pain anywhere in your body. Here are some other common trigger points.


「痛みjの正体」 骨の変形? 筋の緊張? 「トリガーポイントで腰痛は治る」について

「トリガーポイントブロックで腰痛は治る」(加茂淳 著)について

20110101
最近、ときどき、患者様に、「トリガーポイントブロックで腰痛は治る」の内容についての意見を聞かれます。

この著書は、神経痛は骨による神経圧迫(椎間板による髄核脱出、後縦靱帯が骨化)で起こるという(以下「圧迫説」=加茂氏のいわれる「損傷モデル」)を批判し、筋肉のスパズムで起こる(以降「スパズム説」)ことを解説しておられます。

そこで今回は「圧迫説」と「スパズム説」について考えてみたいと思います。

Ⅰ 「圧迫説」が主流の理由

近年来、画像診断機器の発達によって詳細に人体の構造を見られるようになり、神経痛については、”神経圧迫があるかどうか”から説明するのが日本においては主流です。

この理由については2つあります。

1. 簡単に言えば画像がもたらす説得性と思い込みです。痛みの可能性が複数あるかもしれないのに、圧迫のみを強調し、他の可能性を排除しているからです。

人は目で見えるものに非常に弱い。ですから痛みを訴えている人の腰のMRI画像をみたら案の定、骨に変形があったというだけで痛み=骨の変形という結論に至るのだと思います。

2.患者様の痛みに対する表現の曖昧性が治療側に誤解されるということです。

一般的に「痛み」と表現されているものでもそれが抽象的な深部感覚になると患者によっては「シビレ」と表現することもあります。(加茂氏の著書p74)
そこで患者の「シビレ」という表現をその通り受け取り神経「圧迫」と判断してしまうことも十分ありえます。

Ⅱ 医学での「定説」とは何か

日本では神経痛については「圧迫説」が「定説」となっているようですが、物事を科学的に考えるならばあらゆる科学が「仮説」です。「仮説」が「定説」になるのは、その説が多くの人に信じられているからです。

ですから、現在の”科学的”「定説」なるものも、将来必ずひっくり返されると思います。
先ず、現代医学は”物理学のような意味で科学”ではありません。 それは物理学のようにシンプルなモデル設定が困難であるからです。

医学のモデルは人体という複雑な構造モデルであり、生きた人格を持った人間が研究対象ですので、シンプルな構造モデルにすることに困難性がつきまといます。

そこでEBM(実証に基づく医学)の考え方に沿って、ダブルブラインドテストや統計的な方法で治療薬、治療方法を開発しているというのが現実ですし、それが医学の”科学的方法”というものです。

それでもEBMに基づく医療は実際に行われている医療の半分にも満たないそうですから、医学が如何に科学的方法から遠いのかということでしょう。

しかし医学を科学的方法に近づけてより完成度の高い医療を提供するのが本来の目的ですから、医学を科学的な考えで処理することについては全く論を待ちません。

そうであるならば今まで医学で「定説=科学的な結論」として唱えられてきた理論もいわゆる「仮説」としてとらえ直す方が問題の立て方としてはより科学的であるし患者様の為にもなると考えます。

参考までに以下に構造主義的な科学観について引用します。

「科学というのは構造を記述することです。科学理論というのは構造のことです。最終的に正しい究極の理論というのはありません。
より多くの現象を説明できる理論が、より有効な理論であると言えるだけです。背反する二つの理論が同じくらい有効な時、必ずどちらかの理論が間違ってい るなどという事は決してありません。」(「構造主義科学論の冒険」p98 池田清彦著 毎日新聞社)

Ⅲ 「圧迫説」と「スパズム説」を「仮説」として同等に見た場合の論理

先ず圧迫説スパズム説双方に共通する認識を整理します。

1. 神経圧迫について整理すると
 ①神経圧迫がある人で神経痛症状を呈する人がいる
 ②神経圧迫がある人で神経痛症状を呈さない人がいる
 ③神経圧迫がない人で神経痛症状を呈する人がいる
 ④神経圧迫がない人で神経痛症状を呈さない人がいる
 
以上の4つの命題について検討してみましょう。
①は圧迫説の人が日々臨床でみているものですね。 

②の命題に疑問があるでしょうか。

これは圧迫説の本でも圧迫があるのに無症状というのはいろいろ紹介されていますし、実際にすごい変形の方でも無症状の人は沢山おられます。

このあたりの文書としては「腰痛をめぐる常識の嘘」「続・腰痛をめぐる常識のウソ」(菊地臣一 著 金原出版株)や「腰痛は怒りである」(長谷川淳史 著)などに解説されております。(次節で抜粋を載せます。)

特に「腰痛をめぐる常識の嘘」「続・腰痛をめぐる常識のウソ」は「スパズム説」をおそらく念頭においておられないかもしれない研究者(現在は福島医科大 の学長)の真摯な研究報告として一読に値するもので、特に鍼灸師は読んで欲しい書物です。

③はこれは通常筋肉痛の方に多く見られるものですね
特にスポーツ選手(特にランナー)などで起きるハムストリング筋(大腿部後面の筋)の緊張などで起きる痛みは従来の概念である坐骨神経痛そのものです。

④はこれは通常臨床的には来られませんが、ありますね。

2.スパズム説について整理すると

 ①スパズムがある人で神経痛症状を呈する人がいる
 ②スパズムがある人でも神経痛症状を呈さない人がいる
 ③スパズムがない人で神経痛症状を呈する人がいる
 ④スパズムがない人で神経痛症状を呈さない人がいる

以上の命題はどうでしょうか。
①について、これは加茂氏が述べておられます。(後述します)

②について、これも鍼灸師などは臨床で経験しております。実際には筋電図でもとらないと分からないのですが、触診で圧痛点などを探すとポイントが見つかることもあります。

③について、これもあります。特に心療内科領域の患者にはみられます。

④これも臨床的には来られませんが、ありますね。

そこで、これらの臨床上の命題についてを総合すれば、「神経痛の原因は”全て”神経圧迫である」という命題が如何に無理があるかということが分かりますね。

これらを言い直すとすれば神経痛の原因として「神経圧迫もあるかもしれない」し、
「筋のスパズムでもあるかもしれない」ということです。

ここまでの説明では、神経痛と自覚される痛みがあったとしても、そして骨格の変形を指摘されたとしても、骨格の変形→神経圧迫→神経痛の発症と短絡的に考えることの危険性を述べました。

Ⅳ.「圧迫説」で考えると理解できない事実の存在

「圧迫説」も「スパズム説」も「かもしれない」という仮定の問題であると言いました。さて、それでは圧迫がMRIなどで見えるという視覚的な事実はどのように取り扱うのでしょうか。

日本で「圧迫説」が席巻しているのはおそらく実際に圧迫が視覚的に見えるということに多くの人が納得しておられるからです。
ところが実際は痛みの存在を神経圧迫だけで説明しようとすると矛盾がでます。

「腰痛の原因は椎間板ヘルニアであると、ふつう信じられている。椎間円板は椎骨の間から突出して、感覚線維を含む脊髄後根を圧迫すると信じられていり。椎間板ヘルニアはX線写真で見ることができる。

そして、人口の1~3%に存在する。椎間板ヘルニアの頻度は、痛みをもつ人たちともたない人たちで同じである。
椎間板ヘルニアがあって痛みをもつ人々が、外科手術以外の方法で治療されると椎間円板の突出した部分は消えたり、消えなかったりする。しかし、これはまだ痛いか、それとも痛くないかに関係しない。

椎間円板の役割についての外科医の混乱は、突出した椎間円板を取り除く手術の割合が、国によって大きく異なることに反映されている。10年前(この本の 初版が1999年-筆者注)に、10万人当たり、英国で100人、スウェーデンで200人、フィンランドで350人、米国で900人であった。

この割合は現在下がり続けていて、神話がばらまかれて、少数の人の利益になるが多くの人の不利益になるような不名誉な時代は終わった。不利益を受けたあ る人たちは、手術の結果、明らかにいっそう悪くなった。」(「疼痛学序説-痛みの意味を考える」p117 Patrick Wall 著 横田敏勝 訳 南江堂)

「椎間板ヘルニアとして診断を受け入院し、保存療法を受けた患者さんを5年後に追跡調査した報告があります。50%の患者さんは症状がなく、42%の患者 さんが症状はあるが日常生活には支障がないという状態です。症状があって日常生活で困っているという患者さんは8%にすぎません。この事実は腰部椎間板ヘ ルニアで明らかな圧迫所見が存在していても、時間の経過とともに大部分の人が良くなってしまうことを示唆しています。」(腰痛をめぐる常識の嘘 p23)

「椎間板ヘルニアの自然経過は大部分は良好です。2週間で25%、1ヶ月で38%、2ヶ月で53%、3ヶ月で78%が自然に改善したとしたとの報告がありま す。このことから腰椎椎間板ヘルニアの大部分は手術しなくても改善が期待できます。多くが一般に良性で自然治癒しますが再発も40-80%にみられます。 これらのことから、3ヶ月過ぎても改善がみられない、症状が再発を繰り返す、または増悪する場合は注意が必要ですのでご相談ください。」(東京女子医科大 学脳神経センター脳神経外科のHPより)

「神経根の症状はいわゆる坐骨神経痛としてよく認識されています。神経根、すなわち坐骨神経痛、つまり神経根の障害は痛みであるということは自明に理とし て患者さんにも医師にも受け入れられています。しかし、神経根がなぜ痛みを起こすかについて果たして分かっているでしょうか。実は全くわかっていない、と いうのが現実です。」(腰痛をめぐる常識の嘘 p26)

「一般に坐骨神経痛とよばれている末梢神経障害による痛みには原因となる多くの要素が考えられてきた。(中略) 最近の研究で虚血が主な原因であることが 明らかになったが、神経圧迫の直後におこる痛みの問題についてはまだ答えが出ていない。椎間板圧迫により根を刺激するという説も、ラセーグ検査陽性の患者 の88%に外科的検査で所見が見られなかったことを論拠に疑問視されている。」(腰痛症p142 カリエ 荻島秀男訳 医歯薬出版株式会社)

「外来診察で、特にこれといった異常所見が見出せない場合、単純X線像で変形、すべりや分離といった明らかな形態学的所見が存在すると、それが症状の原因と考 えがちです。患者さんも目でみて分かる所見を差し出されて症状の説明を受けると、分かったような気になってしまうものです。果たしてこのような形態学的変 化がそのまま症状に対応するものでしょうか。

X線写真と疼痛歴を対比させた、60歳以上の老人の検診結果があります(表8)。これをみると脊椎症や分離すべり症、骨粗鬆症などでは、何らかの脊柱に由来 すると思われる症状を有する頻度は70~80%です。唯一、X線所見と疼痛病歴が完全に一致した疾患は強直性脊椎骨増殖症のみです。最近でこそ形態学的な 異常所見が必ずしも症状に結びつけられない、ということが少しずつ認識されてきたようには思います。

しかし、現在でもなお変形やすべりや分離を即、症状の原因に結びつけがちな傾向にあることは否めません。」(腰痛をめぐる常識の嘘 p35)


表8 自覚症状とX線所見(一般住民)

X線所見  腰痛   下肢痛   間欠跛行
脊椎症性変化  51.9% 23.0% 5.6%
分離・すべり 46.9 25.7 9.1
無分離・すべり 72.5 31.4 7.8
骨粗鬆症 65.6 18.7 0.0
強直性脊椎骨増殖症 85.7 14.3 7.1
その他  67.8 35.7 14.3
 合計 55.8 24.2   6.1

以上、「腰痛をめぐる常識の嘘」(菊地臣一 著 金原出版株)他、いろいろの研究論文を引用してきましたが、これらの報告を読んで、先ず感じることは、「痛み」という結果=現象に対して、その原因を一つの「圧迫」という同一性に求めてその矛盾が出たわけです。

すると当然、「痛み」の原因として「圧迫」以外の他の「原因」も求めなくてはならないわけです。つまり、一つの原因では説明つかない何か別の原因(複数の原因)を求めなくてはならないことになりませんか。

確かに、従来から「痛み」の一般論に関していえば、少なくとも、内科領域からの関連痛や精神科領域からの心身症的な痛み(池見酉次郎、ジョン・E・サー ノらの提唱)はいくつかは承認されてはいます。しかし「筋肉痛」だけはどうして認めないのでしょうか。これが不思議です。

結果に対応する原因は一つでなければならないという理由は全くないハズです。しかし、これはすこし言い過ぎで実は現代の整形外科もすこしは筋肉痛の存在を認めてはいます。

例えば、五十肩。五十肩という概念が作られるまではおそらく頸椎の変形→神経圧迫→それによる痛みの発生という図式が作られたと思います。 しかし頸椎の変形では痛みの説明がつかない症例があまりに多いのでこのようなカテゴリーの病名が作られたのではないかと推測します。実際には五十肩は肩周 囲の筋痛症です。

筋筋膜性の急性腰痛=ぎっくり腰(中には下肢のほうまでしびれ感を訴える人もおられます)でも20年前まではヘルニアと診断されるケースが非常に多かったと記憶しております。

ですから鍼でヘルニアを治したという報告をずいぶん聞いたものです。ところが腰椎の変形では説明つかない症例が多かったのでしょう。それ以降”筋筋膜性”の腰痛という言葉が普通にいわれるようになりました。

頸腕症候群。昔はおそらく頸椎の変形→神経圧迫→頚部から肩の痛みの発症として理解されていたのではないでしょうか。現在は筋筋膜性のものとの認識になっております。

坐骨神経痛のようなハムストリング筋(太ももの裏側の筋肉)の痛みなどは筋肉痛として一般に承認されています。
つまり骨による「圧迫説」では説明つかないものは徐々にではあれ客観的に見れば「スパズム説」に移行しているのが現状です。

Ⅴ.「圧迫説」に対する「スパズム説」からの批判

従来から「圧迫説」では説明つかない事実は認められてはいても、「圧迫説」を批判した文書はあまりありませんでした。これを批判したのは加茂氏です。

トリガーポイントの提唱者でありこの言葉の創始者であるジャネット・トラベル氏の「筋筋膜性疼痛と機能障害:トリガーポイントマニュアル」(全4巻 この著作が原典 1983年)でも、この点に関しては加茂氏ほど述べておりません。

加茂氏は神経痛の原因を「筋肉のスパズム」としてその仮説理論を打ち立てました。

加茂氏は痛みについて次のように簡単にまとめています。

「*神経線維は通常、その末端にある受容器からの信号を伝えるものであって、その途中が興奮を起こしたりすることはありません

*筋肉が痛みに大きく影響する。

*運動器(筋骨格系)の痛みは、慢性痛症と深く関係しています。このことは筋肉の痛みが、皮膚からの痛みよりも中枢神経に及ぼす影響が大きいということに関係していると考えられます。」
(「トリガーポイントブロックで腰痛は治る」p82)

「圧迫説」に対する批判は

「*神経線維は通常、その末端にある受容器からの信号を伝えるもの・・・」というところです。

「痛み」は神経の末端のポリモーダル受容器でとらえるものであって神経の途中で圧迫を受けたからといってそれが末端までおりるということはないということです。

この部分は「痛みを知る」(熊澤孝朗 著 東方出版)の「ポリモーダル受容器」の説明部分に詳しく説明されています(「痛みを知る」p61)。

根強い慢性痛は「圧迫説」によれば”「圧迫」が取り除かれない限り治らない”というような説明もうけるようですが、加茂氏の説明では

「*運動器(筋骨格系)の痛みは、慢性痛症と深く関係しています。・・・」で説明されます。
つまり、痛みが記憶されるということです。この痛みの記憶が持続的な神経「圧迫」が原因でそれを取り除かない限り治らないと勘違いされるということです。

この部分は「痛みを知る」(熊澤孝朗 著)では「fMRI:画像による脳機能検査」(p49)に説明されています。
以上、簡単ですが加茂氏の「スパズム説」は上記引用したように非常にシンプルです。シンプルだけに痛みという現象=結果に対して「圧迫説」よりその原因を矛盾なく説明できるようです。

加茂氏の理論を簡単に解説してしまいましたが、実際に氏の著書をお読みになった方がわかりやすいと思いますので、是非お読み下さい。

Ⅵ 最後に-

1. 一つの痛みに対して原因を一つに限定するという考え方

以上のように「圧迫説」と「スパズム説」をみてきましたが、神経痛の原因を何故「圧迫説」だけに限定するのかという疑問が当然湧きますね。

そんなにかたくなに「圧迫説」だけに限定しなくても、と思いますね。「圧迫説」が間違っていないとしても、患者から手術は避けたいという要望があれば、 他の選択肢としてとりあえず「スパズム説」でもやってみようか、とかの考え方は採用できないものでしょうか。

これには日本の医学研究者には根強く「特定病因説」が支配しているように思います。「特定病因説」とは「ある疾病には一つの病因が特定されるという疾病理論」で、ローベル・コッホ(1843-1910)が提唱したものです。

このコッホの説の意義は病原菌による疾病が主流の時代には非常に意義があった考え方だと思いますが、疾病の原因論としては研究範囲を非常に狭くしてしまう可能性があるということも見ておかなくてはなりません。

2. 経絡とトリガーポイント

トリガーポイントを勉強して感じたことは、鍼灸治療の古典からの手法で痛みを経絡から考えるというのはある程度の妥当性があったのだということです。例えば下の図をご覧下さい。

鍼灸師は昔は左図の赤い点左のような痛み(小臀筋の関連痛)があると経絡図の矢印の経絡(胆経といいます)の股関節あたりのツボをとったりします。

トリガーポイントはその多くがツボに一致するといわれてますが、古典の時代ではおそらくジャネット・トラベル氏が観察していた同じ現象をみていたのかもしれません。

3. 仮説は実験によって「一般性」を獲得する

大陸移動説というのは1960年代くらい前までは”大陸静止説”を採る大多数の地質学者の物笑いの種だったそうです。

しかし現代では「プレートテクトニクス理論」として再評価されております。

大陸移動説では非難されていたその時代においても、その説に従えば様々な生物の化石や生物の分布状況をすっきり説明できたそうですが、”大陸静止説”側はこれら現象に対してあの手この手の理屈を駆使して苦しい説明をしてきたそうです。

理論というものはことほど左様にある権威または「定説」になってしまうと変更が難しいということでしょうか。

加茂氏の著書で「痛いところに局所麻酔を打ったら、痛みは治ります。それは、そうですね。痛いところを麻痺させるわけですから。つまり、これが昔の『局所注射』というものです。

昔はそれをみんながやっていました。」(p134)なる言葉を読んで、確かに、昔の鍼灸師のほうが患者さんの痛みを素早くとっていたのではないかと推測されます。

さて、「スパズム説」は仮説です。一般的に「最終的に正しい究極の理論というのはありません。より多くの現象を説明出来る理論が、より有効な理論であると言えるだけです」(「構造主義科学論の冒険」p98)

この説が有効な理論として一般化するには、多くの実験-つまりこの理論で治療をしている施術者に患者様が治療を受ける-をしなければ有効な理論とは認められないということです。

出来るだけ多くの方がこの理論で治療を行っている医療機関、施術所にかかっていただきたいと思います。

(了)


© 2024 【平塚市の鍼灸院なら】 伊礼はり灸院 【開業37年の豊富な治療実績】 Powered by STINGER